██山の悲劇
山には恐ろしい噂話が多い。
夜になればそれほどの雰囲気が出るし、夜中に山に入った人が獣を化け物だと見間違えることがあるからだ。
昔には科学など研究されていなかったため、江戸時代かそこらではそういった噂話があとを絶たず、
現世ではそれが都市伝説になったりする。
しかし、そういった噂話には殆ど裏がある。
秘密結社や極秘情報機関などが自身の施設などを隠蔽するために垂れ流した噂話、
SCP財団で言う「カバーストーリー」であるものが多い。
もしくは本当に異常性が彷徨う山だったりする。
そのため財団や営利法人はそういった都市伝説が世に出されると調査を始める。
それがインターネットが元ネタであればその発信源を特定し実際に本人に聞いたり、
その場所へ調査をしたりする。危険が伴う可能性があるがな。
そして一週間前、千葉県の██山にて行方不明事件が発生した。
その人物は事件前、ネット掲示板サイトにて恐ろしい化け物を見たという書き込みをし、
その数分後近くの警察署に通報したという。今もその人物は見つかっていない。
そしてその人物の死体が今、調査に向かった営利法人因幡の白兎 軍事部 "登山隊"中隊所属、軍医中尉の足元に転がっている。
その死体は頭部から腹部にかけてが欠損し、断面からはピンク色の腸が見えている。
軍医になれば誰もが見慣れる絵面だ。
上が言うには、『この死体の状況を調べろ』だとよ。
…ゴム手袋を装着する。
そしてもはや原型を留めていない肉片に触れようとしたその時。
低い咆哮が耳を貫き、あたりが真っ白になったかと思うと暗闇に突き落とされたように真っ黒になった。
彼が気が付いた時には、目の前にだらしなく首を垂れた、化け物がそこで死んでいた。
おそらく先程の低い咆哮で彼を気絶させた犯人だろう。
腹には無数の風穴が空いており、そこからグロテスクな内臓が見え隠れしている。
そして、彼の手には殺された機動部隊員の拳銃が握られ銃口からはまだ硝煙が出ている。
彼はこの状況を察した。自分が無意識にこの化け物を殺したのだと。
突然吐き気が込み上げてきた。その場に跪き、喘ぐ。
アスファルトが粘着質な胃液で汚れていく。
何時間だろうか。しばらく吐いていたが、ふと何かに気付いた。
山道の角から近づいてくる。「何か」が。自分が殺した化け物と同じ奴だろうか。
しばらくしてそれが人だと気づいた。いや、人ではない。
本能が近づいてくる「モノ」が危険であると叫ぶ。
逃げろ。逃げろ。
しかし手足は痺れ、足跡も早くなった。
叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。
角から「ソレ」が出てきたころに、彼はこれから自分に降掛かる絶望を知ることになる。
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