山手エンドロウル
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電車に揺られている。

外の景色はいつ見ても単調であった。

禍々しいほどに密集し黒煙を吐く工場。

まるで陣地取りをする様に配置された広告看板。

そんな景色が流れてゆく。

その中で営利法人社員である神楽坂は葛藤していた。

それはSCP財団と営利法人因幡の白兎の関係についてである。

これは長年の営利法人社員の悩みの種であった。

先ずそもそも理念の違いから財団と営利法人の間には軋轢が生じていた。

財団は収容し異常存在から人々を守る。

しかし営利法人は異常存在を売り捌きそれを収入とする。

よって今まで両方は啀み合っている状況にあった。

「まもなく、池袋、池袋、御出口は左側です」

やがて列車が停止すると外から大量の人が入ってきた。

あっという間に列車内は人で埋まってしまった。

列車から出て行く人も少なくはないが—。

おや?

列車から出ようとした若い男性がポケットから何か落とした。

見ると黄色いカードのようだったがそれには見覚えがあった。

SCP財団のクリアランスカードである。

「すみません」

「はい?」

「落ちましたよ」

カードを差し出す。

「あ、ありがとうございます」

「いいえ」

そう言い列車に戻った。

…ふとズボンのポケットに僅かな感触が伝わった。

ポケットの中に手を突っ込んでみる。

そこには逆側のポケットにあったはずの営利法人のIDカードが入っていた。

そしてカードには付箋が貼ってあり、几帳面な字でこう書かれていた。

「落ちましたよ」

反射的に駅のホームを見る。

もうそこに男性はいなかった。

列車から飛び出し、喧騒に包まれた駅のホームを見回しても、男性の姿を見つけることはできなかった。

やがて列車のドアは閉まり、次の駅に向かって走り出す。

財団職員も人なんだ。いつか分かり合える時が来る。

今日の空は晴れることを放棄したような曇り空だった。

しかし、その雲の先にはやはり、青空が広がっているのだろう。


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